ベンチャー企業の若き社長との一コマ
「役員報酬はいくらに設定するのがいいのですか。」
「最初のうちは、ギリギリ生活できる程度ですね。」
「えっ」
「高額報酬にするためには、会社が儲かっていることが前提です。
スタートアップの場合、なかなか難しいですよね。
逆に、税金のことだけを考えてもベストな答えにはなりません。
役員報酬のシュミレーションをして出した金額が損をしない金額と言われているのですが、あくまでも理論上の話です。
シュミレーションをして、ベストな役員報酬は月額10万円と判定されても、実際は10万円では生活できないですよね。」
「確かに」
「ですので、最初のうちは生活できる程度で、会社が儲かってきたら次のステップの検討をするのがいいですね。」
会社と個人を一体で考える
スタートアップで、最初から利益の出る会社は、そこまで多くないのが現状です。
大きく利益の出る会社は、ほんの一握りでしょう。
大抵は、トントンか赤字スタートです。
上場を目指すような場合は、とにかく会社にお金を残すというケースもあるのですが、そうでない小さな会社の場合、会社も個人も一体のようなものです。
会社のお金がなくなれば、自分のお金を会社に入れなければなりません。
そのため、会社と個人を合体させて考えると分かりやすいです。
最初のうちは、手取り額がそのまま生活費になる程度でしょう。
徐々に手取り額が増えてくると、生活費の他に貯蓄ができるようになります。
この貯蓄は、会社員の貯蓄とは少し性質が違います。
経営者は、会社のお金がなくなれば、自分のお金を会社に入れなければなりません。
ですので、会社員以上にお金を貯蓄しておく必要があります。
手取り額の10%~20%を毎月積み立てておくといいでしょう。
お金を会社に残すか個人に残すか
会社が儲かってくると、お金を会社に残すか個人に残すかという問題がでてきます。
私の結論は、会社の規模を必要以上に拡大しないのであれば、
・できるだけ個人にお金を残す
・会社には使う分だけ残す
となります。
理由は、個人で持っていたほうが、お金を自由に使えるからです。
使い勝手がいいのです。
生活費や貯蓄に自由に使えますし、会社のお金が足りなくなったときに、会社にお金を入れることもできます。
会社からすると、社長からの借入金ですが、これは社長が出資した資本金と同じイメージです。
なお、社長からの借入金が増えても、銀行の評価はほとんど変わりません。
一方で、会社にお金を残す場合は、社長が自由に使うことはできません。
あくまでも会社のために使うお金ならば自由に使えます。
社長の生活費が足りないために会社からお金を引き出すと、社長への貸付金になります。
これは、銀行が嫌う項目のひとつです。
この金額が増えると、評価は大きく下がります。
銀行から借入をするつもりがないならば、こういうことは関係ないのですが、無借金経営をしている会社のほうが少ないのが現状です。
中小企業白書によると、中小企業の7割以上が借金をしています。
銀行からの借入も選択肢のひとつとしてあるならば、会社のお金を社長へ移すのはデメリットがあるといえます。
個人に残したお金とは違い、会社に残したお金は使い道に制限があるということになります。
お金の使い勝手か税金か
できるだけ個人にお金を残すといっても、あまりにも高額報酬にすると、会社にお金は一切残りませんし、社会保険や税金が高額になります。
冒頭でお話した税金の問題がでてきます。
ここで、「税金」と「お金の使い勝手」のバランスをとることになります。
「税金」と「お金の使い勝手」のどちらを優先するか悩ましいところですが、会社の規模が大きくないうちは、「お金の使い勝手」を優先するのがいいでしょう。
手順
1事業計画を立てる(税理士と打ち合わせするのが好ましい)
2税理士に役員報酬シュミレーションをしてもらう
3税金を優先させたシュミレーションで、個人の生活や貯蓄ができるならそれでOK(節税もできて、さらにお金の使い勝手にも問題がないということになる)
4個人の税金や社会保険が高額になりすぎるのであれば、役員報酬を減らし、お金を会社に残して調整する
5バランスを取りながら、その時点での最適な役員報酬にする
会社が儲かってきたら、お金の使い勝手と税金のバランスをとりながら、納得のいく役員報酬を設定しましょう。