最近、私の身を案じてくださる方がいらっしゃいました。
「税理士って、AIに仕事を奪われちゃうんでしょ」
なんとも回答に困る質問です。
奪われるというか、無くなるというか、減るというか、共存するというか、
いずれにしても仕事内容は変化しそうです。
個人的には、単純作業はAIが正確に高速にやってくれて、税理士業がもっと楽しくなると妄想しているですが…
リアルなところだと、空いた時間で、別のビジネスをするとか濃厚ですね。
そういえば1年くらい前に、この手のニュース流行りましたよね。
いまさらながら、「税理士の仕事はAIに奪われる」について考えてみました。
「税理士の仕事が奪われる」と脅かす不安商法
最近、おもしろいDMがありました。
税理士向けの事業承継業務についてのDMだったのですが、
「事業承継税制が変わり、経営コンサルや他士業がどんどん攻めてくる。
彼らは営業をして、社長に気に入ってもらい、自分に都合のいい税理士に切り替えてくる。
税理士剥がし(ぜいりしはがし)が行われるのです。
それを阻止して我々の仕事を守りましょう。
そのためにも今こそ事業承継業務のスキルが必要です。
くわしくはこちら。」
みたいなことがツラツラと書いてありました。
個人的には税理士剥がし(ぜいりしはがし)というパワーワードがツボでした。
突っ込みどころ満載のDMですが、これって要は、「税理士の既得権が脅かされているから今なんとかしておかないと、大変なことになりますよ」みたいなことを言っている訳ですよね。
本当にこんなので、ヤバいよヤバいよと言って申し込みをする人がいるかは不明ですが、この商法って「AIに仕事を奪われる」と同じですよね。
ここ数年で「AIに代替されないために」というワードで儲けた人たちはたくさんいると思います。
で、その商法の結論は、
・コミュニケーション能力を高めましょう
・コンサルティング能力を身につけましょう
・クラウドを使いこなしましょう
みたいなところに落ち着くようです。
結論だけみると、なんじゃこりゃですが、申し込んでお金を払う人もたくさんいるでしょう。
「AI研究のために」セミナーに行く人は全く別ですが、「AIに奪われないために」を目的にしている人は、上記のおもしろDMにひっかかるのと同じことではないでしょうか。
つまり不安商法です。
「AIによって税理士がなくなる」は極論
結論から言うと、極論だなと感じます。
・なくなる職業
・奪われる職業
・代替される職業
・消える職業
どれも強い言葉です。
これらの逆が、
・なくならない職業
・奪われない職業
・代替されない職業
・消えない職業
そんなことが約束されている職業があったら教えてほしいなぁ…
世の中のほぼすべての職業が、この間にあるのではないかと。
でも、左か右かはっきり分けたほうが、わかりやすいんですよね。
二択だから。
それと、おもしろおかしくニュースにしやすいですよね。
さらに極論をプッシュするのが、
・有名大学と有名企業の研究だから
・ビジネスの世界で有名な人が言っているから
みたいな「権威」です。
「権威」は危険です。
例えば、一例ですが、ビジネス界の重鎮が「世界では税理士がすでに消えた国もある」と話していましたが、間違いです。
消えていません。
でも、極論のテーブルだと、「やっぱりそうなんだ」になってしまいますよね。
1年くらい前に、税理士消える論争が盛り上がった背景には「権威」の影響もあるのではないかと思っています。
でも「権威」って現場の人間(第一線の税理士)ではないのですよね。
極論と権威と不安商法の組み合わせ
ここで
「税理士は数字合わせが仕事じゃない。心を通わせる泥くさい仕事なんだ」
とか
「日本の税法は複雑すぎてAIでは対応できない(グレーゾーンの扱いとか)」
みたいなことを言うつもりはないのですが、
税理士として第一線にいる人間じゃないと分からない「肌で感じていること」ってあるんですよね。
「税理士は消えないから」とあぐらをかいているのではなく、税理士はAIを使いこなして共存する気満々ということを伝えたいのです。
ちなみに、私のまわりの税理士で、AIに仕事を「奪われる」と本気で思っている人はひとりもいません。
私が「税理士の仕事はAIに奪われる」というワードから、おもしろいなと思ったことは、
・AIによって税理士はなくなる
・税理士はAIに代替される
・税理士は消える職業
・税理士に将来性ない
などではなく、
「極論」と「権威」と「不安商法」の相性は抜群だなということです。