これは、一冊の本と出会って、人生を変えた青年の物語。
自分の人生を自分で決めたから
10数年前、ひとりの青年が、とある企業に営業職として入社しました。
大学を卒業したらサラリーマンになるのが当たり前、定年まで同じ会社で働くのが当たり前、そう思っていました。
親、兄弟、仲間、まわりを見渡せばみんな同じです。
疑う余地なんてありませんでした。
青年は、朝から晩までがむしゃらに働きました。ただただ働きました。
「出世する以外に道がないから」
やりたくない仕事でも、我慢して働いて、上司に嫌われなければ40代で課長、50代で部長、そのまま定年まで働く。
そういう人生を歩むのだと思っていました。
ところが20代後半になった青年は、自分の将来に悩み始めます。
「給料も、会社での立場も不満があるわけではない」
「でも本当にこのままでいいのか」
「何かが違う」
「なんとかしなければいけない」
「でも何をしたらいいのか分からない」
「そもそも何がしたいのだろう」
本を読んでも、セミナーに参加しても、コンサルを受けても、みんな言うことは同じでした。
「何がしたいの」
「何ができるの」
「変わらなきゃダメ」
「今の仕事を頑張れなければ何をしても一緒」
「今の仕事を楽しむ努力をしろ」
それが分からないから苦しんでいるのに……
そして、また日々の仕事に忙殺され、答えがでないまま時間だけが過ぎていきます。
30歳を迎えた青年は疲れ切っていました。
朝から晩まで、本気になれない仕事を必死でやって成果を出し続けなければならない。
自分のためではなく、会社のため、上司のために働き、派閥や人間関係の調整、出世争い……
こんな生活があと30年続くのか……
やりたいこと、好きなことを仕事にしたい気持ちはあるけど、どんなことが自分のやりたいことなのか、自分でもわからない。
それよりも目の前のノルマをなんとかしなくては……
青年は結局、今までと同じように仕事をして、同じように苦しんでいました。
そしてついには、
「人生がつまらない」
こんなことばかり考えていました。
このような状態になっても結果は出し続けなければなりませんでした。
そんなある日、青年は自分の思いを吐き出すように紙に書き出しました。
ただただ何時間も書き続けました。
できるかできないかではなく、何がやりたいのか。どうなりたいのか。何が好きで、何が嫌いなのか。
そしてひとつの答えにたどりつきます。
「自分の力で、自分のために生きていく」
青年が選択した道は、税理士でした。
会社の人達からは失笑され、「正気じゃない」などと言われましたが、青年は希望に満ち溢れていました。
「自分の人生を自分で決めたから」
自分で決めた道のはずなのに
青年は猛勉強をして2年後に、弁護士、会計士、税理士が所属する総合事務所に入所します。
入所後も日々勉強に明け暮れました。
朝6時に出社し、帰りは終電、土日も休みなく働き続けました。
激務でしたが、それでもよかったのです。
自分で決めた道だから。
そんな生活を送っていたある日、体に異変が起きました。
たくさんの病院をまわりましたが、どこの病院でも原因不明と診断されました。
青年はそれでも自分が決めた道だからと止まることをしませんでした。
それに自分以外のメンバーは同じように働いているし、自分だけが休むわけにはいかない。そう言い聞かせて働きました。
しかしその後も、異変は次々に襲ってきました。
そして、冬のある日、青年は倒れます。
もう限界はとっくに超えていたのです。
誰かの限界は、自分の限界ではなかったのです。
あんなに努力したのに、あんなに自分を変えようとしたのに、ぼろぼろになった姿は数年前に夢見た姿とまったく違うものでした。
青年は、結局、前の会社で苦しんでいたときと同じ「我慢」をしていたのです。
「自分で決めた道だから」と言葉を代えて自分に言い聞かせていたのです。
だから見えなかった。本当の自分の気持ちが。
前の会社を辞めるときに、これだと思えるものを見つけたはずだったのに……
「自分の力で、自分のために生きていく」という想いはどこにいってしまったのだろう。
人生を変えるきっかけになったのは人ではなく本
青年は、昔から悩んだときには本を読んでいました。
このときも、数何百冊の本を読みました。
そして一冊の本と出会います。
「こんな生き方ができるのか」
霧が晴れて進むべき道が見えたような気がしました。
何年もの間もがき続け、「求めている生き方」は、ずっと昔から一緒だったのだと気づきます。
人生で大切なことは、会社からでもなく上司からでもなく、本から学びました。
自分が理想としている姿を体現している先駆者の姿は、不思議な力があります。
数ヶ月後、青年は独立の道を選択します。
その後、税理士として独立した青年は、40歳を前にして思い返します。
社会人として10数年、色々とあったけど、「今が一番楽しい」。
そしてこれからも、「今」に集中して生きていけそうな気がする。
独立して生きていくのは楽ではないけど、自分の人生を自分で決めることができる。
時間はかかってしまったけれど、ようやくこの道を進み始めた。
あの本は、今でも定期的に読んでいる。
今まで何千冊も本を読んできた青年が、あの一冊の本に惹かれたのは、
著者の魂を強く感じたから
魂というと抽象的な表現になるけど、これ以外に適切な言葉が見当たらない。
事実、青年はこの本と著者に「勇気」をもらって独立した。
その後、ご本人と対面することになるのだけど、それはまた別のお話で。
青年は今、書く仕事にやりがいを見出している。
自分にしか書けない、自分の魂が入った本を書くことができれば、あの頃の自分と同じように悩んでいる人の役に立てるかもしれない。
本を書くことに対して、崇高な思いがあるわけではないし、影響力を期待しているわけでもない。
ただ、昔の自分と同じように悩んでいる人の「きっかけ」になればいいなと思う。